第ニ話 百合

3.戯れと失望


『百合』は起き上がった彼をやさしく抱き締めた。

(…)優しい膨らみが顔を受け止め、静かな温もりに包まれて一瞬気が遠くなる。

しかし、彼は手を振って『百合』と幽霊達を振り払う。

『百合』が彼を離すと、彼は再びベッドに倒れこんだ。 今度は『煙』に包まれた幽霊達が彼に纏わりつこうとする。

彼が手を振ると『煙』の形と共に女たちの形も崩れる。

(…?)うまく頭が回らない… 転がったまま頭を振って、意識をはっきりさせようとする。

(…違う…煙が「幽霊」を目に見えるようにしているんじゃない…あの煙が女達?…)


するっ…

腰にあった重みが消え、同時に寒くなる。

はっとして『百合』を見た。 彼女は彼からはなれ、ベッドに横ずわりして悲しげな顔で彼を見ている。

(…)彼は急に罪悪感を覚えた。 しかし…(『百合』…この煙達…この『人』達は僕を…どうする気なんだ…)

彼は混乱し、救いを求めるように再び『百合』を見つめ、はっとした。 その瞳は、ここで彼が拒絶すれば二度と会えな

いことを伝えていた。

そして、彼の心の中で何かが、このままここに留まれば引き返せない道に踏み込むことを告げている。

(…)決断しなければならない…今すぐに…


風が動いた。 彼は顔を上げる。 『百合』がベッドから降りようとしている。

思わず彼の手が動いて、白い手首を捕まえる。

『百合』が驚いたように彼を見る。 彼は、一瞬迷い…そのまま目を閉じた。

(ずるいな…僕は…)彼は『百合』に決断を任せたのだ。


長い長い間…そして、柔らかな唇が彼の唇と重なる。 もう一度あの甘い息が…

彼は観念したように息を吸い込む…

(ああ…)甘い幸せな心地よさが肺を満たし、体の隅々に広がっていく。

力が抜けて上体が倒れる。 ベッドに横になった彼に、再び『百合』が、そして『煙』達が纏わりついて来る…


(うん…)腰の…男根の上で『百合』の花が柔らかな重みを前後させ、甘い蜜をたっぷりと塗りつけている。

彼の男根が、陰嚢が、甘い暖かな蜜に包まれるた、時々ひきつけたように縮み上がる。

乳首を、唇を、微かな感触の女の舌が求め、舐める。

ふぁ… 彼は吐息を漏らし、身を捩る。 女たちの舌の愛撫は見かけとは違い、たまらない喜びをもたらす。

彼は、目を開けて、胸を舐めている女を見る。 薄い煙の舌は、乳首に僅かに潜り込んでいる様だ。

(ああ…)彼は思った。 女達の煙の体は、皮膚に溶け込み、直に真皮を刺激するのだろうか。

陰嚢の…中身に優しいものが触り…転がしている。

はぁ…はぁ… 大事な所が、彼にだけ聞こえるようにキュッキュッと鳴る。

男根が固くなって…寂しさを表現しだした。


『百合』がゆっくり腰を上げる。 彼女の花が蜜を滴らせて彼を呼ぶ。

しかし、盲目の亀の頭は首を振るばかりで行くべきところを見つけられないでいる。

煙の手が亀の頭を撫でる。

う… ズキンと濡れるような刺激が男根に走ると、それは彼女のモノとなった。 手に導かれ、亀の頭が甘えるように
花に顔を擦り付ける。 柔らかな花びらは、蜜を垂らしながら彼を迎え入れた。

あ…あ… ズキン…ズキン…背筋を走る冷たい痺れ。 濡れた滑らかな所をカリが滑っていく都度にたまらぬ刺激が

起こる。

ヌ…ヌ…ズッ… 『百合』の奥に着いた…そう感じた途端。 キュゥゥゥゥ…彼女が彼を締め上げる。

は…ぅ… 彼女の温もりがが彼のものに染みとおっていくのか、陰茎の中がほうっと温まっていく… 温かが亀頭に…

そして陰嚢に伝わっていく。 男根がヒクヒク蠢く度に、中身が心地よくなっていくようだ。

彼の両手は『百合』の腰を支え、前後にそっと揺すぶる。 その小さな動きだけで彼の男根は、より固く、より熱くなっ

ていく。


その間も煙の女たちは彼を愛し続ける。 乳首や唇、耳などは言うに及ばず、繋がっている隙間、そして皮膚の隅々

まで染み通り、彼を揺すぶり続けている。

彼は、その非現実的な快楽にゆったりと漂う。 男根は高ぶっているのに、女たちの愛撫のせいなのか、迸りることが

出来ない。 いや…

(終わりたくない…ずっとこのままでいたい…) 達しないのは彼自身が願っていたからだ…終わりを迎えたくないと…

ビク…ビクビクビクッ…(うっ…)突如、陰嚢が震えだした。 『そこ』が自分の使命を思い出したかのように。

彼は股間に力を込めて耐えようとする。 しかし、一度始まれば止めることは出来ない。

あっ…あっ…ああっー…

短く悲鳴のように喘ぎ、彼は二度目の迸りを『百合』に放った…


暗く、冷たい脱力感… いってしまった…つまり…終わったのだ… 

彼の天井を見上げたままぼんやりとする。 

『百合』が彼の上に重なってくる。 『百合』の膨らみがかれの乳首を埋もれさせ、その温もりが彼を彼を少しだけ慰め

てくれる。

しかし、どうしようもない寂しさは拭うことが出来なかった。


すっと、彼の視界に白いものが差し出された。 煙草だ。 『百合』があの煙草を差し出している。

(…僕に?…)彼は目で問いかける。 百合が無言で頷く。

これを…これを吸う…それは…

彼は煙草を手に取る。 決断はとっくにすませた。 彼は煙草を咥える。

(火…)そこで彼は、『百合』煙草に火をつけていなかったことにようやく気がついた。

目を閉じて、息を吸う。

(あ…はぁ…)

甘く蜜のような味か口の中に広がり、喉を流れ落ちていく。

目くるめくような心地よさが肺から広がり、蕩けていくような気分になっていく。

すぅ… 彼は、『百合』の下で夢幻の喜びに身を委ねた。

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